着物を重ね着で魅せる 奥行きと個性が光るレイヤードスタイル術
着物の着こなしにおいて、長年同じようなスタイルに落ち着き、手持ちのアイテムではこれ以上の変化が難しいと感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、着物の魅力を再発見し、個性を表現する手段として「重ね着」は非常に有効なアプローチです。単なる防寒着としての重ね着にとどまらず、素材や色、そして着方の工夫一つで、着物スタイルに奥行きと洗練されたモダンな印象をもたらすことができます。
このコラムでは、お手持ちの着物や小物を活用し、一歩進んだレイヤードスタイルを構築するための具体的なヒントをご紹介します。
1. 着物×着物のレイヤード:深みと表情を演出する組み合わせ
二枚の着物を重ねて着る「着物×着物」のスタイルは、着こなしに深い奥行きと豊かな表情を与えます。このアレンジは、色や素材の組み合わせによって様々な印象を生み出すことが可能です。
同系色・異素材の組み合わせで立体感を
内側に着る着物と外側に着る着物を同系色でまとめることで、落ち着きがありながらも洗練された印象を与えます。この際、素材の異なるものを選ぶと、光沢や質感の違いが生まれ、単色でも平面的な印象になりません。例えば、地紋が美しい綸子の着物の上に、ざっくりとした風合いの紬を重ねる、あるいは、光沢のある絹の着物の上に、ほんのり透け感のある薄手の羽織(着物風に着用)を合わせると、上品な立体感が生まれます。
大胆な色合わせ・柄合わせで個性を
よりモダンで個性的な着こなしを目指すなら、内側と外側の着物で色や柄にコントラストをつけるのも一考です。内側に鮮やかな色の着物を選び、その上に地味な色味や透け感のある着物を重ねることで、襟元や袖口、裾からちらりと見える色が鮮烈なアクセントとなります。また、柄物の着物の上に無地の着物を重ねたり、大小の柄を組み合わせたりすることで、視覚的な面白さを加えることができます。
着方のアレンジで表情豊かに
着物×着物のレイヤードでは、着方一つで印象が大きく変わります。例えば、内側の着物の襟元を少し広めに抜いて、上から重ねる着物の襟元から、内側の襟をより多く見せることで、首元に華やかさや抜け感を演出できます。また、上の着物の裾を少し短めに着付け、下の着物の裾を見せることで、足元に軽やかさや遊び心を加えることも可能です。
【ポイント】 * 着膨れ防止: 重ね着をする際は、厚手の着物を避け、できるだけ薄手のものを選ぶのが賢明です。特に胴回りは着膨れしやすいので、内側の着物は身体に沿うように着付け、帯を締める位置や強さにも注意が必要です。 * 滑りの良い素材: 絹など滑りの良い素材同士を重ねると、着崩れしにくく、着付けも楽になります。
2. インナーを活用した「見せる」小物使い:現代的なアクセント
伝統的な長襦袢だけでなく、洋服のインナーを効果的に取り入れることで、着物スタイルに現代的な要素と個性を加えることができます。
タートルネックやブラウスでモダンに
着物の襟元からちらりと見せるタートルネックやブラウスは、モダンな着物スタイルを象徴するアレンジの一つです。寒い季節には暖かさを提供するだけでなく、色や素材(ウール、カシミヤ、レース、フリルなど)によって、着物全体の印象を大きく変えることができます。例えば、シックな色の着物に鮮やかな色のタートルネックを合わせたり、シンプルな着物にフリル付きのブラウスを重ねたりすることで、洋服感覚のレイヤードを楽しむことが可能です。
レースや刺繍のインナーで繊細な華やかさを
着物の襟元や袖口から、レースや刺繍が施されたインナーを覗かせるアレンジは、繊細で女性らしい魅力を引き出します。特に、透け感のあるレース素材は、着物の色味と重なることで、奥行きのある上品な華やかさを演出します。半襟をつけずに、襟元にデザイン性のあるインナーを見せることで、より手軽にモダンな雰囲気を楽しめます。
【ポイント】 * 色合わせ: インナーの色は、着物や帯の色と調和させるか、あるいは意図的にコントラストをつけてアクセントにするかを考えます。全体の色数を増やしすぎないよう注意すると、洗練された印象になります。 * 素材感の調和: インナーの素材感と着物の素材感が大きくかけ離れすぎないよう、バランスを意識することが大切です。
3. 帯周りとの調和:全体のバランスを意識したコーディネート
重ね着は着物全体のボリュームに影響を与えます。そのため、帯結びや帯揚げ・帯締めといった小物使いで、全体のバランスを調整することが重要です。
重ね着の厚みに合わせた帯結び
着物を重ね着することで、胴回りに多少の厚みが出ることがあります。このような場合、ボリュームのある帯結びではなく、すっきりとまとまるシンプルな帯結びを選ぶと、着姿がより美しく見えます。例えば、お太鼓結びであれば、たれを短めにしたり、二重太鼓ではなく一重太鼓にしたりするなど、工夫次第で印象が変わります。また、兵児帯や半幅帯を使った、比較的シンプルな結び方も、重ね着の着物には合わせやすいでしょう。
帯揚げ・帯締めで全体の印象を引き締める
重ね着で色数が増えがちな着こなしでは、帯揚げや帯締めで全体の印象を引き締めたり、色のバランスを整えたりする役割が大きくなります。着物やインナーの色の中から一色を拾って帯揚げ・帯締めに用いると、まとまり感が生まれます。また、帯揚げをシンプルに収める(例えば、低めに結ぶ、見せる面積を少なくする)ことで、重ね着で生まれた襟元の表情を際立たせることもできます。素材感のある帯揚げや、季節感を取り入れた帯締めを選ぶことで、モダンな雰囲気を一層高めることができます。
4. 季節ごとの重ね着:素材と色の選択
重ね着は防寒対策だけでなく、季節感を表現する上でも有効な手段です。
春:軽やかさと透け感を意識して
春の重ね着は、重たくなりすぎないよう、軽やかさと透け感を意識するのがおすすめです。薄手の着物や、レース素材のインナー、あるいは薄物の羽織を着物に見立てて重ねるなど、素材の軽やかさを活かしたコーディネートを。色合いも、淡いパステルカラーや自然の草木を思わせるアースカラーでまとめると、春らしい爽やかな印象になります。
秋・冬:暖かさと深みを追求
肌寒い秋から冬にかけては、防寒を兼ねた重ね着が活躍します。ウールや紬、大島紬などの厚手の着物を重ねたり、カシミヤやウール素材のタートルネックをインナーにしたりすることで、暖かさと共に季節感のある装いを楽しめます。色合いも、ボルドー、モスグリーン、ブラウン、マスタードなど、深みのある色を選ぶと、より季節に合った落ち着いたモダンな雰囲気を演出できます。
まとめ
着物の重ね着は、単に着物を複数枚着るという行為以上の、深い意味合いを持っています。それは、手持ちのアイテムを再解釈し、組み合わせの妙を楽しむことで、着物スタイルに新たな価値と現代的な魅力を加える可能性を秘めています。伝統的な着付けの知識を土台としつつも、既成概念にとらわれずに色や素材、着方を工夫することで、自分らしいモダンな着物スタイルを確立できるでしょう。
ぜひ、このコラムでご紹介したヒントを参考に、お手持ちの着物や小物を活用して、奥深く個性豊かなレイヤードスタイルに挑戦してみてください。着物を着る日々が、より一層豊かなものとなるはずです。